2010年9月3日
西表島 イタジキ川遡行5 ゴルジュ突破!
メンバー:塩月、佐藤、加藤 一度落ちてしまうと、ザックが水に浸かりすこぶる重い。再び小さなリッジを越えて壁に取り付くも歯が立たない。次のホールドが遠くてどうしても行けなかった。“うぉ~、フックハンマーがほしぃ!!”と思わず叫ぶ。こういうシビアなヘツリではお助け道具があると助かるのだが、ギアは佐藤に全部渡してあったし、フックハンマーは加藤に預けた。できるだけ軽量化を考え装備をギリギリまで削ったのが裏目に出た。しかしここまできたら悔やんでもしょうがない。上で見ていた佐藤がフィックスロープを限界までピンと張ってくれた。だからといってフィックスロープを掴んでいける場所ではなかった。弧を描くようなトラバースではロープは谷側に張り出している。重いザックを担いでロープを掴むとブラーンと下にぶら下がるような感じになってしまい、あっという間にバランスを崩してしまう。また落ちてイタジキ川の天然水をガブ飲みするのは嫌だ。 しかしここでひらめいた!首の後ろにロープを当てるようにして体を支えてやれば、微妙なスタンスも耐えられるのではないか?ということでやってみた。微妙なホールドでも体が止まった。しかもファイト一発で手を伸ばすとそこにはスリングがぶら下がっていた。次の支点にお助けとして佐藤がスリングを設置していたのだ。さすが佐藤!おかげで核心部のど真ん中でレストができた。しかし何ともカッコ悪いヘツリだ。このカッコ悪いヘツリは、後で佐藤に大笑いされることになる。 釜のちょうど真ん中あたりまで来た。しかしこれからが本当の核心である。もしこの先、落ちることがあれば、釜の真ん中にある支点まで流されて止まり、そこから上がることはできないだろう。巨大な洗濯機に放り込まれるようなものだ。考えただけでも恐ろしい。 ビビッテなかなか初めの一手が出ない。勇気を振り絞って手を出すが、ホールドはかなり悪い。“マズイ”と思いながらも体を入れていくが、それ以上動けなくなった。本当にヤバイと思ったそのとき、腰のあたりに出っ張った岩でニーロックがばっちり決まる。うぉっ!奇跡!!そのままテッドで右手を伸ばすと、思いっきりガバに手が届いた。しかもそのガバは、佐藤が後続のために磨いて苔を落としている。本当に助かった。そのままF2まで進むことができた。一旦、F2の流れの中に足を入れてから5mほど直上し、テラスへ上がる。F2の流れは強烈で、足を持って行かれるかと思った。ここまで来るのに完全にバテた。F2からの登りは、佐藤がロープを下ろしてくれたので確保されながら登ることができた。確保されていても被っているところがあったため、スリングを使ってA0で越えた。ボロボロになりながらなんとかテラスまで上がることができた。 佐藤が“お疲れ!”と声をかけてくれるが、私が真っ先に口にした言葉は“加藤君はぜったい無理だべ!!”である。クライミングの技術というのもあるが、何よりも彼は私より重い荷物を背負っていた。しかし佐藤はそのへんも十分承知で“ゴルジュの中ほどに入ったら、ロープで荷揚げしますんで大丈夫ですよ”とこたえた。加藤が進んだ距離の分だけメインロープを折り返して戻してやり、それをザックに結んで上から引き上げてやれば加藤は空身で登ることができる。
加藤がゴルジュに入る。側壁に取り付く前に、余ったロープを加藤のほうへ流してやるが、流れが激しすぎてロープが見えない。上からロープを引いたりゆすったりして、加藤に見えやすいようにしてやる。まるで釣りしているようだ。大声で右だ!左だ!と何度も叫び、なんとかアタリがきて加藤を釣り上げることができた。私が加藤をビレイし、佐藤が加藤のザックを引き上げる。ザックはメインロープで引き上げるため、どうしても水流に逆らった方向に引かなければならない。激烈に重くなる。途中、ザックが岩に引っ掛ってしまいどうしようもなくなる。
加藤は空身とはいえ、見事な動きをした。私が何度か落ちた場所も、上のほうにルートをとり難なくクリアする。支点の回収も片手で無難にこなした。佐藤も思わず“オッケー出来てる!!”と声をあげ、安心した様子だ。
しかし問題は引っ掛かったザックだ。加藤にザックをなんとかするよう指示を出すがうまくいかない。結局、加藤が上まで登りきった後、佐藤が降りてザックを回収することになった。登ってきた加藤から、回収したギアを受け取ると佐藤は再び流れのほうへ降りていった。今回の遡行は、佐藤の超人的なクライミング技術とこういった献身的な働きによって成功したと言っても過言ではない。佐藤をロアダウンで激流へ降ろす。上からは佐藤の様子が全く見えないため、何をやってるのかさっぱりわからない。時々、ロープを“グイグイッ”と引っ張って合図を送ってくるがロープを“引け!”なのか“緩めろ!”なのかさっぱりわからない。とりあえず透視をしてみて、感じるままに操作する。(後から聞いたが、佐藤の思ったとおりにロープを動かせていたらしい)。佐藤がF2までザックを引き上げてきた。ここまでくれば声も届く。佐藤が“ザックを上げてくれー!”と叫ぶが、重くてさっぱり上がらない。そこでザックを半マストでビレイし、少し上げたら固定する動作を繰り返した。ザックと佐藤が、見える位置までやってきた。ザックを見ると、中に水が入ってパンパンに膨れ上がっていた。加藤のザックはICIのガッシャブルムだ。ザックの容量は無限大(公式80ℓ)といわれるガッシャが、まるで溺死した豚のように見えた。佐藤とザックをビレイしながら、激重のザックを引っ張り上げるという操作を“ブヒーッ!”と叫びながら繰り返していると、ただごとではないと思ったのか、安全な場所で休んでいた加藤がようやく気づいてくれた。“ていうかオメェのザックだろ!さっさと手伝え!!”と心の中では叫んだが、私もいい大人なのでそんなことは口にしなかった。こうして3人がかりでようやく豚を引き上げることができた。このとき豚の重量は40kg以上あるように感じた。
ようやくゴルジュを抜けた。ここだけで4時間以上を費やしてしまった。佐藤は“正直、後の二人が登れるかマジで心配だった”と言った。彼の献身的なフォローでパーティー全員が登りきることが出来た。そして加藤もよくついてきた。ハーケン、ナッツも全て回収してくれた。二人とも本当にありがとう。
F3がテラスから見えた。ものすごい飛沫が上がっている。ゴルジュの完全中央突破とはならなかったが、満足のいく登攀ができた。
ゴルジュを抜けると、目の前には今まで見たこともないような大きくて美しいナメ滝が広がっていた。
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