2010年9月1日水曜日

西表島 イタジキ川遡行4 ゴルジュに入る



20010年9月3日
西表島 イタジキ川遡行4 ゴルジュに入る
メンバー:塩月、佐藤、加藤 

朝、スコールのようなドシャブリの雨で目が覚めた。島では雨が降らない日はないようだ。西表島は長野よりはるかに西に位置するため日の出が遅い。なかなか明るくならないので少し寝坊した。朝8時ころテン場を出発して、8時半頃マヤグスクの滝の上に到着する。水量は前日と比べてもたいして減ってないように感じた。
このゴルジュには、入り口に2mほどの小さな小滝(F1)、50mほど入ったところに5mぐらいの第二の滝(F2)、そしてその奥に8mほどの第三の滝(F3)の3つの滝がある。ゴルジュの右岸側には高さ20mぐらいのところにゴルジュの外まで続くテラスが伸びていた。
流れが非常に強いことから、まともにゴルジュの中を進めないことが予測された。そこで今回は、F1を越えてゴルジュに入ると右岸側をヘツリながら登り、F2の落ち口あたりでテラスの上へ抜ける作戦を立てた。手順としては、佐藤がリードで60mロープをテラスの上まで引っ張りフィックスする。セカンドがフィックスロープを頼りに登る。サードが支点を回収しながら登ってくるというシンプルなもの。しかしこれは60mロープがテラスの上まで届くことが前提になっている。 
ゴルジュの入り口にハーケンで支点を作る。今回用意した装備は、ハーケン7枚、カム(小さめの)3つ、ナッツ半セット 、60mロープ1本。佐藤が私に気を使って“オレがリードしていいですか?”と断ってきた。“もちろん”とこたえる。実際ここをリードできるのはお前しかおらんよ!そもそも私は撮影しなければならないので、リードが佐藤、セカンドおよびビレイが加藤、そしてサードが私というのが“暗黙の了解”のような形で最初から決まっていたような気がする。しかし実際はそういう運びにはならなかった・・・
 
佐藤が加藤に“フィックスにビナを2枚がけでこいよ”と声をかけると、加藤は“えぇぇ?ああぁ~はぁぁ・・・”と宇宙語をしゃべりはじめた。ビビッテ、完全に目が泳いでいる。“お前大丈夫かっ!”と声をかけるが、加藤は死んでいた。佐藤が“塩月さん、セカンドとビレイお願いします”と言うので、私がセカンドをやることになった。加藤は“オレはどうしたらいいの?”という顔をしている。そういえば、加藤とはゴルジュ攻略の打ち合わせをしていなかった。厳密に言えば、そんな打ち合わせは一度もこのパーティーではしていない。私と佐藤の間だけで、ここの登攀イメージができていてそれが一致していただけのことだった。逆に言えば、この方法しかここは突破できないという状況でもあったので、このゴルジュ突破にかける“思い”の差が加藤との間にできてしまっていたようだ。ある意味、加藤には申し訳ないことをした。加藤にロープの末端を自分に結んで、支点を回収しながら最後に登ってくるように指示し、私のフックハンマーを預ける。“ところで加藤君、八の字結びってできるよね?”。加藤、“は、はちの字ってあうぅ・・・”。本当に大丈夫なのか不安になる。本当に本当に不安だったので、その場で末端をハーネスに結ばせた。

 
いよいよ佐藤がゴルジュに入っていく。入り口のF1は左岸側をヘツリながら登り、滝の落ち口へ出る。落ち口の手前で1つ支点を取る。佐藤がF1の上の激流に入り、ゴルジュを左方向に横切って右岸側へ取り付くのが見えた。そこにも支点を取っている。それより先は、彼の姿は見えない。信じてロープを送っていくしかない。ビレイは肩がらみで行った。トラバース気味に進むので、落ちたらすぐに水流に巻き込まれると考えられたからだ。撮影は加藤にお願いした。しかし彼の動きを見ていると私の後頭部しか撮っていないようだったので、ビレイしながら撮影した。あたりまえだが、ビレイも撮影もうまくいかない。佐藤が見えなくなり、核心に入ったようなのでビレイに集中した。ゴルジュを横切って進んだため、ロープが水流に押され流される。佐藤も苦労しているのかロープがなかなか進まない。1時間ぐらいたったであろうか?60mロープも残り5mほどになったとき、急にロープの引きが速くなった。上に着いたらロープを2回強く引くことになっているが、水圧が強すぎてよくわからない。ゴルジュの中を覗きこむとF2の上のほうに佐藤がいるのがなんとなく見える。終了点に違いないと信じ、ロープを固定した。
 
いよいよ私が行く番になった。出る前に加藤に“この状況を楽しんでやろうぜ!”と声をかけるが、“あぁ、はい・・・”と弱々しい声でこたえた。正直、私もちょっとビビッてるんだけど・・・
フィックスロープにカラビナをかけ、F1の左岸側をヘツッて滝の落ち口に出る。滝の上は極端に谷が狭まっていて流れが強いが、川底がスラブの一枚岩になっているためフリクションがよく効いた。ゴルジュの中に入ると、その異様な雰囲気に圧倒された。目の前にはF2がゴウゴウと音を立て、ものすごい水量が流れ落ちてくる。滝つぼは10~15mくらいの釜になっていて川底と側壁が大きくえぐれている。流れが速すぎて泳いで滝に取り付くなんてありえない状況である。ロープは右岸側の側壁に伸びていた。
 
F2の上のテラスから佐藤が手を振っているのが見えた。よくまぁこんなところをリードで行ったもんだ。フィックスロープを頼りに右岸側へ渡る。途中、ロープの下をくぐったときATCをかけたカラビナがロープに引っ掛ってしまった。“しまったっ!!”と思ったときには、鉄の塊のATCが木の葉のようにゴルジュの外へ飛び出していった。ゴルジュの外にいる加藤に大声で“拾ってくれー!”と叫ぶも、加藤は既にロープの末端を自分に結んでいたので、“鎖につながれた犬”状態。つながれたロープを引っ張ってウロウロしている。無常にも私のATCは、加藤の横をすり抜け、マヤグスクの滝発射台をみごとに飛び立っていった。確保器は、カンつきビナにつけるべきだったと反省する。また“アレがもし自分だったら”と思うとゾッとした。
 
側壁の取り付きは小さなリッジになっていた。リッジの上に支点があったのでカラビナをかけかえる。よく見ると佐藤が作った支点のすぐ近くに、支柱部分だけが残っている腐ったボルトの跡があった。同じようなルートを登った(登ろうとした)人がいることに驚いた。リッジを越えて側壁に入る。側壁は上にいくほど被っているので、なるべく水際まで下がってトラバースしていくがホールドが滑ってまともに掴めない。フィックスロープを掴むと、どうしても谷のほうへ伸びてしまいバランスを崩してしまう。足場も非常に脆く、ここぞ!というときに思いっきり崩れてしまった。中途半端に落ちると危ないので、思い切り釜に飛び込んだ。そのまま流されてリッジの支点のところまで流される。まともじゃない水の流れだ。落ちたところから壁を登り返せるかと思ったけど、とてもじゃないが無理だ。しかも壁の下部は大きくえぐれていて足をかける場所もない。

本当にここ行けるのかなぁ?オレ。

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