2010年9月1日水曜日

西表島 イタジキ川遡行7 幻の湖



2010年9月3日

西表島 イタジキ川遡行7 幻の湖
メンバー:塩月、佐藤、加藤 

見事なナメは200m以上も続いていた。鬱蒼としたジャングルの中に、これだけの規模のナメが存在することに驚いた。ナメの上流部にはポットホールがいたるところに存在した。人が入ることができる大きさのものもある。加藤が入ってみたが、“ヌルイ・・・”とブツブツ言っていた。
やがて、また深い瀞が続く。また泳ぐ。野人、佐藤は木に登って瀞に飛び込む。飛び込んだ衝撃でヘルメットがずれた。加藤にも飛び込めと言うが、疲れているのか飛び込まない。私もそうだが、泳いでばかりだったのでけっこう疲れた。それに比べて佐藤は元気だ。
やがて水の流れも浅くなり、苔に覆われた鬱蒼とした渓相になる。やがて人の背丈よりも大きな岩が折り重なるように谷を埋め、水の流れは完全になくなった。岩の間を迷路の中を歩くようにルートを選んで登っていく。岩は苔に覆われ非常に滑りやすかった。お助けスリングを出しながら協力して越えていった。
やがて水の音が聞こえてくる。突然、高さ6mほどの滝が現れた。あまり高さがないので簡単に登れるような気がした。佐藤が“とりあえず登ってみて、ロープが必要だったら出しますわ!”と言って取り付く。滝の上部で、佐藤にしては少してこずっていたので“難しいのかな?”と思ったら、やっぱりロープを出した。後続のために上からロープを垂らして確保の準備をしてくれた。

次に私が登った。滝に取り付くとき、水をもろかぶってしまう。思わず“ブヘー!”とか叫びながら登る。やはり思ったとおり、滝の落ち口に出る最後の一手が難しかった。“これはちょっと難しいなぁ・・・”と思って、確保してくれている佐藤を見る。よく見ると、佐藤は手でロープを握っているだけだった。“おわっ!”と驚いた感じで固まると、佐藤は“ちゃんと確保してもらいたい?”と不適な笑みを浮かべた。“お、お願いします佐藤センセ”。半マストでしっかり確保していただき最後の難しい部分を越えた。まともなホールドがほとんどなかったので、かなりカッコ悪いレイバックで体を上げた。上から確保してなかったら沢でこんな登りはしなかっただろう。続いて加藤が登った。やはり一番上を越えるのに苦労しているようだ。そこで佐藤が“ホイッ!”と言って手を出して引き上げる。まさに“ファイト!イッパーツ!!”の世界だ。佐藤は山岳部の後輩だった加藤にはやさしい。
滝を越えて少し行くと、大きく左に流れが曲ったところで深い瀞になり視界が大きく開けた。大きな岩盤が左岸側に弧を描くように広がり、一段高くなったところから水が流れこんでくる。まるでその部分が何かの力で陥没したかのような地形だ。水は青く、流れはほとんどない。川底には沈没船のように不思議な形をした岩が横たわっている。直感的にここが“幻の湖”に間違いないと思った。
幻の湖は2万5千分の1地形図でも確認できる湖で、誰がそう名づけたがわからないがそういうふうに呼ばれている。確かにこれだけ上流に、突然これだけの広がりのある場所が存在するのは不思議な感じがする。
この“イタジキ川遡行”を計画したころ、この幻の湖で大ウナギを釣るのを1つの目標にしていたが、ここまで来るともうどうでもよくなった。“湖”と呼ぶにはあまりに貧弱な大きさであるが、ここまで苦労してくると“幻”と言えるような神秘な雰囲気を感じる。いま流行りの言葉を使えば、まさにここはパワースポットであった。

幻の湖の上流にも水は流れていた。地形図を見るとイタジキ川は幻の湖を源にして流れているような雰囲気を感じるが、まだまだ上流部は続く。湖から上流に行くのに、大きな岩(転石)を越えて行かなくてならない。荷物が重いとけっこう苦労する。ここでも佐藤がお助けスリングを出して、加藤をサポートした。

我々は湖の少し上流、左岸側に絶好のテン場を見つけ、そこでビバークすることにした。 

つづく


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